脊髄損傷後遺症
脊髄が損傷されると、その障害された部位より下へ脳からの指令が伝わらなくなり、また下からの信号が脳へ伝わらなくなります。そのため運動麻痺、感覚障害、自律神経障害、排尿障害、排便障害などのさまざまな障害が生じます。
脊髄は脳と同様に中枢神経に分類され、成人の場合、神経細胞が一度損傷されるとその再生は困難であり、いわゆる後遺症がその障害の程度により残ります。
1.運動麻痺、感覚障害
脊髄の損傷されたレベル(髄節)により、運動麻痺や感覚障害の分布が異なります。麻痺の重さは脊髄の損傷の程度によります。各運動レベル(髄節レベル)での運動機能を以下に示します。また、表1は、各運動のレベルと機能残存筋、日常生活動作(ADL)との関係を示したものです。
第5頚髄 ― 肘を曲げることができる
第6頚髄 ― 手首をそらすことができる
第7頚髄 ― 肘を伸ばすことができる
第8頚髄 ― 指を曲げることができる
第1胸髄 ― 小指を外側に開くことができる
第2腰髄 ― 股関節を曲げることができる
第3腰髄 ― 膝を伸ばすことができる
第4腰髄 ― つま先を上にそらすことができる
第5腰髄 ― 足の親指を上にそらすことができる
第1仙髄 ― つま先を下に向けることができる
完全麻痺とは損傷された脊髄より下の運動機能や感覚機能が消失し、肛門周囲の感覚も消失し、肛門括約筋を自分で締めることができない状態です。一方、不全麻痺とは、運動機能や感覚の低下はありますが、肛門周囲の感覚があり、肛門括約筋を自分で締めることができる状態です。
2.排尿障害、排便障害
排尿障害は二つに大別できます。膀胱の反射が高くなり、尿が少し溜まっただけでも勝手の膀胱が収縮してしまう過活動性膀胱と、逆に膀胱の収縮が十分にできなくて、尿を出すことができない低活動性膀胱があります。排尿の管理で重要なことは残尿(尿が出しきれず、常に一定の量の尿が膀胱内に溜まってしまう状態)を残さないということです。残尿があると膀胱感染を起こし、さらには腎臓への感染が起こり、腎不全を起こす可能性があります。
膀胱の感染から腎不全を起こし死亡する例が多いので排尿のコントロールは非常に重要です。排尿の方法の選択はその人の機能によって異なりますが、残尿を少なく管理するために、自分で尿道からカテーテルを入れて、膀胱に溜まった尿を出す、自己導尿が行われます。
3.自律神経症状
自律神経過反射
第6胸髄より上の髄節での損傷で起こります。症状は血圧上昇、体が赤くなる発赤、冷や汗、脈が遅くなるなどです。多くの場合、膀胱に尿がたまりすぎたり、便が溜まりすぎたことによる交感神経の過反射が原因となります。原因を取り除くことで症状は急速に改善します。
起立性低血圧
座ったり、立ち上がった時に血圧が下がってしまい、めまいやひどい時には意識消失を来すことがあります。腹帯で腹部を圧迫したり、下肢を弾性包帯での圧迫を用いながら、座位や立位の訓練を行い、体を慣れさせることが必要になります。